ムクドリの助け
「じゃあ、もう食べないの?」
「たーべーる!」
日曜の昼。いつものように、うどんの麺と肉だけを先に食べて、野菜だけをきれいに残した双子次男。
「まーま、やって!」
妻が手伝って野菜を口に入れると、ぶえーっと出す。
「ちょっと!もう食べない?」
「たーべーる!」
3才4か月、複雑な年頃なのだ。
妻は作業があるので別の部屋へ。
僕は食器洗いの担当。キッチンカウンター越しに様子をうかがい続ける。長期戦の予感。
「食べないんだったらパパ食べちゃうよ?」
「たーべーる!」
「そっか、じゃあ食べなよ」
「まーまーは!?」
椅子の上に立ち、キレている。
「ママは仕事。あ、自分で食べられないの?」
「たーべーる!」
食べたくないのか、食べたいけども食べられないのか、実はママにあまえたいだけなのか、真意はつかめない。
「食べたくないんだったら残してもいいよ?」
「たーべーる!」
そしてまたサイレンのような音量で泣き出してしまった。こうなるともう手におえない。
その時、庭に一羽の鳥が舞い降りた。
「あ!鳥さんだ!」
注意をそらす。
黒っぽい体に白い側頭部、黄色いくちばし、スズメよりも一回り大きいくらいの鳥が、庭のウッドデッキからこちらをジッと見ている。
ピタっと泣き止んだ次男。
「空から泣いてるのを見つけて応援に来てくれたのかな。『ちゃんと野菜も食べて!頑張って!』って、言ってるよ」
自分でもアホらしいと思いながらも、最近は絵本の内容にも興味が出てきた次男に、真面目に伝えてみる。
すると次男は黙ったまま椅子に座り、残った野菜を自分で食べ始めた。そしてあっという間にペロリとぜんぶ食べてしまったのだ。
「すごいじゃん!えらい! わははは!」
うまくいきすぎて自分でも笑ってしまった。
「じゃあ、鳥さんにありがとうを言おう」
「とりさん、あがと!」
鳥は静かに飛び去った。
こんどお礼に餌台を置いておくね。